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千葉地方裁判所 昭和63年(ワ)73号 判決 1989年8月28日

原告

川口孝行

ほか二名

被告

田村義郎

ほか二名

主文

一  被告らは、各自、原告山崎ちよ子に対し、金一〇万円及びこれに対する昭和六二年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告山崎ちよ子の被告らに対するその余の請求、原告川口孝行、同川口みさ枝の被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告川口孝行(以下「原告孝行」という。)に対し金八二三万八〇一七円及びこれに対する昭和六二年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告川口みさ枝(以下「原告みさ枝」という。)に対し金七二七万三九七四円及びこれに対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告山崎ちよ子(以下「原告山崎」という。)に対し金一一六万四六一四円及びこれに対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 被告田村義郎(以下「被告田村」という。)は、昭和六一年一月一二日午後九時二五分ころ、軽乗用自動車(以下「田村車」という。)を運転して、千葉市弥生町一番地先路上を、同市穴川四丁目方面から同市黒砂台一丁目方面に向け進行中、道路右側の駐車場に入るべく右折するに際し、折から右道路を被告亀田成人(以下「被告亀田」という。)運転の普通常用自動車(以下「亀田車」という。)が対向して進行してきたのであるから、このような場合、後続車に対して事前に右折の合図をして警告するのは勿論、対向車の速度、対向車との距離を考慮し、同車の進路を妨害せずに安全に右折すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、右折の合図も十分に行わず、対向車との安全確保を確認しないまま漫然右折した過失により、右折する田村車との衝突を避けるため、道路右側の対向車線に自車を進行させた亀田車をして、折から田村車の後方を同一方向に進行中の原告孝行運転の普通乗用自動車(以下「川口車」という。)に正面衝突せしめた。

(二) 被告亀田の方から見た事故の態様は次のとおりである。

被告亀田は、前同日時ころ、亀田車を運転して前同所道路を田村車と反対方向から進行中、制限速度を遵守し、前方の安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、制限速度を二〇キロメートル超過する時速六〇キロメートルの速度で進行した過失により、折から、前方道路を反対方向から進行してきた田村車が右折しようとするのを咄嗟に避けるため反対車線に飛び出し、右田村車の後方から進行してきた原告孝行運転の川口車に自車を正面衝突せしめた。

(三) 右事故により、原告孝行は加療一〇か月を要する左右肩甲打撲、頸椎・腰部・右膝・左膝関節の各捻挫の傷害を、川口車に同乗していた原告みさ枝は加療九か月を要する右背部・左肩甲部打撲、頸椎・腰椎・右肘関節・左右膝関節・左右足関節の各捻挫の傷害を、同じく原告山崎は加療一年四か月を要する頸椎挫傷、腰部打撲の各傷害を負つた。

2  被告らの責任

被告田村は田村車の運転者として、同亀田は亀田車の運転者として、それぞれ民法第七〇九条により、同株式会社みどり(以下「被告会社」という。)は亀田車の所有者として、自動車損害賠償保障法第三条による運行供用者として、原告らの損害を連帯して賠償する義務がある。

3  損害

(一) 原告孝行の損害

(1) 通院による損害

ア 医療費 金三四九万六五〇〇円

昭和六一年一月一四日から同年一一月一七日まで千葉整骨院分

イ 休業損害 金二五九万六八八七円

原告孝行の昭和六〇年一〇月ないし同年一二月までの間の取得給与は、

一〇月 金二〇万〇四四〇円

一一月 金二〇万九五六〇円

一二月 金二〇万一八八〇円

更に同年一二月の賞与が金三一万円である。

よつて、原告孝行の年収は金三〇六万七五二〇円となり、一日当たりの平均は金八四〇四・一六円となる。したがつて、休業期間である同年一月一三日から同年一一月一七日までの日数三〇九日に当てはめると、休業損害金の合計額は金二五九万六八八七円となる。

ウ 通院慰藉料 金一〇〇万円

(2) 後遺症損害

原告孝行は、現在でも腰及び両膝が痺れる後遺症を負つており、腰にはコルセツトを装着している。右は自賠法後遺障害等級表一四級一〇号に該当する。右による損害は次のア、イのとおりである。

ア 逸失利益 金七五万円

イ 慰藉料 金六〇万円

(3) 既払分控除等

以上(1)、(2)によれば、原告孝行の損害は金八四四万三三八七円となるが、被告らから損害の内払金として金九五万四二八〇円の支払を受けているので、損害の残額は金七四八万九一〇七円となる。

ところで、被告らは、原告孝行に、前記損害を任意に支払わない。そこで、原告孝行は、弁護士に依頼して訴訟を追行することを余儀なくされた。右損害額は損害の残額の一割である金七四万八九一〇円が相当である。

以上によれば、原告孝行の損害は合計金八二三万八〇一七円(748万9107円+74万8910円=823万8017円)

ということになる。

(二) 原告みさ枝の損害

(1) 通院による損害

ア 医療費 金三七九万一五〇〇円

昭和六一年一月一四日から昭和六一年一〇月六日まで千葉整骨院分

イ 休業損害 金一五二万五三七一円

本件事故当時、原告みさ枝は満二三歳であり、治療の途中で二四歳になつたものである。昭和六〇年の賃金センサスによると、新高卒二〇歳ないし二四歳の賃金は、「きまつて支給する現金給与額」が「一三万五九〇〇円」、「年間賞与その他特別給与額」が「四五万四六〇〇円」、「年収」は「二〇八万五四〇〇円」となる。したがつて、一日当たりの平均の給与額は金五七一三・四二円となる。

一方、原告みさ枝の休業期間は、昭和六一年一月一二日の事故翌日から、同年一〇月六日の症状固定に至るまでの二六七日間である。

よつて、この間の休業損害金額は、金一五二万五四八四円(5713.42円×267=152万5484円、端数切り捨て)ということにる。

ウ 通院慰藉料 金九〇万円

(2) 後遺症損害

原告みさ枝は、現在でも両膝及び足首に痺れを感じる後遺症を負つている。右は自賠法後遺障害等級表一四級一〇号に該当する。

右による損害は次のア、イのとおりである。

ア 逸失利益 金七五万円

イ 慰藉料 金六〇万円

(3) 既払分控除等

以上(1)、(2)によれば、原告みさ枝の損害は金七五六万六九八四円となるが、被告らから損害の内払金として金九五万四二八〇円の支払を受けているので、損害の残額は金六六一万二七〇四円となる。

ところで、被告らは、原告みさ枝に、前記損害を任意に支払わない。そこで、原告みさ枝は弁護士に依頼して訴訟を追行することを余儀なくされた。右損害額は損害の残額の一割である金六六万一二七〇円が相当である。

以上によれば原告みさ枝の損害は金七二七万三九七四円(661万2704円+66万1270円=727万3974円)

ということになる。

(三) 原告山崎の損害

(1) 医療費 金五万八七四〇円

(ただし、被告らからの受領分を控除している)。

(2) 慰藉料 金一〇〇万円

原告山崎の実通院期間は五か月程度であるが、本来休業すべきところを有給休暇を使つて通院したり、学校長(原告山崎は学校用務員である)の便宜によつて休業せずに通院したりしたため、休業損害は請求していない。しかし、その分、本来自由に使用し得る有給休暇を失い、また勤務先に気を使うなどの精神的苦痛・不利益を受けている。これらの事情を勘案すると、慰藉料は金一〇〇万円を下らない。

(3) 弁護士費用 金一〇万五八七四円

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては、(1)、(2)の合計額の一割である金一〇万五八七四円が相当である。

以上(1)ないし(3)によれば、原告山崎の損害は金一一六万四六一四円ということになる。

4  結論

よつて、原告らは、被告らに対し、本件事故によつて受けた損害(原告孝行が金八二三万八〇一七円、同みさ枝が金七二七万三九七四円、同山崎が金一一六万四六一四円)及び原告らに対する治療の終了した日の後である昭和六二年一月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、(一)、(二)は認め、(三)は否認する。

原告孝行、同みさ枝の怪我の程度は、せいぜい全治まで三週間程度の安静をもつて十分と判断され、それ以上の通院は本件事故と因果関係がない。また、原告山崎についても、野村外科医院へ通院した一六日(実日数二日)が本件事故との因果関係のある治療であり、それ以外は本件事故と因果関係がない。

2  同2の事実は認める(本件事故と相当因果関係のある損害について被告らに責任があるという趣旨において認める。)。

3(一)  同3(一)の事実のうち、同(3)の既払分については認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同3(二)の事実のうち、同(3)の既払分については認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同3(三)の事実のうち、同(1)については金三万九一五二円の限度で認め、その余は否認し、同(2)、(3)はいずれも否認する。

三  抗弁

1  一部弁済

被告らは、原告孝行及び同みさ枝に治療費として金六万四九六〇円、通院費として金三五八〇円を支払つた。また、被告らは、原告山崎にも、治療費として金二万九〇七〇円を支払つている。

2  充当

被告らは、原告孝行及び同みさ枝には、同人らの損害を越える金員を支払つている。原告山崎は原告みさ枝の実母であるから、原告みさ枝、同孝行の不当利得分は原告山崎の損害に充当されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、通院費については否認し、その余の事実は認める。しかし、原告らは、被告らの主張する前記交付額は、これを損害から控除して請求しているので、抗弁は理由がない。

2  同2の事実は否認する。

五  補助参加人の主張

補助参加人は原告孝行、同みさ枝の治療に当たつていたものであるが、右治療及びその治療費はいずれも正当なものであり、被告らから非難を受けるいわれはない。

六  補助参加人の主張に対する被告らの認否

否認する。

柔道整復師たる補助参加人の立場において交通事故の被害者を施療するに当たつては、その施療が事故と相当な因果関係があるのか否か十分に検討し、施療が医学的に必要であると医療機関が認めたものであり、かつ、その施療費用を負担する加害者側が右施療を承諾し、なお、その額が社会的に相当なものであることを必要とする。しかるに、補助参加人の施療はそのいずれの要件も満たしておらず、いわゆる乱診乱療の謗りを免れず、正当な施療行為とはいえない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(一)、(二)(本件交通事故の発生、事故の態様)、同2(被告らの責任の有無)の事実は当事者間に争いがない。そして、原告らが本件事故により負傷したことは、その負傷の程度を除き当事者間に争いがない(請求原因1(三))。

二  原告らの損害

そこで、以下、原告らの損害について検討を進めることにする。

1  原告孝行・同みさ枝の損害

(一)  通院に伴う損害(医療費、休業損害)

原告孝行は、本件事故により加療一〇か月を要する左右肩甲打撲、頸椎・腰部・右膝・左膝関節の各捻挫の傷害を負つたとして、右治療に要した費用、右治療期間中の休業損害等の支払を求めている。また、原告みさ枝も、本件事故により加療九か月を要する右背部・左肩甲部打撲、頸椎・腰椎・右肘関節・左右膝関節・左右足関節の各捻挫の傷害を負つたとして、原告孝行同様に治療費、休業損害等の支払を求めている。これに対し、被告らは、原告孝行、同みさ枝が本件事故により負つた負傷の程度はせいぜい三週間であり、これを超える期間中の治療費、休業損害は本件事故と相当因果関係がないと主張し、これが、本件での最大の争点であるので、以下、この点について判断する。

(1) 本件事故と相当因果関係のある損害について当裁判所の考え方

ア 原告孝行、同みさ枝の治療の経過

成立に争いのない甲第三号証の一ないし一〇、同第四号証の一ないし一〇、同乙第一ないし第四号証、同第五ないし第一四号証の各一、二、同第一五号証の一ないし二二、同第二〇号証、第二一号証の一、二、同丙第一、第二号証、同丁第一、第二号証(なお、甲第三、第四号証の各一ないし三、乙第一ないし第四号証、同第五ないし第一四号証の各一、二については原本の存在と成立についても争いがない。)、補助参加人本人(尋問当時は被告本人)尋問の結果、原告孝行、同みさ枝各本人尋問の結果(ただし、後記認定事実に反する部分は除く)によれば、原告孝行及びみさ枝の治療の経過は次の(ア)、(イ)のとおりであつたことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(ア) 原告孝行及び同みさ枝は、本件事故の翌日である昭和六一年一月一三日、増田病院へ行つた。原告孝行及び同みさ枝は、右病院で、医師に対し、昨日交通事故にあつたこと、このため、肩、肘、両膝、腰椎が痛い旨を訴えた(甲第三、第四号証の各二)。病院では、右原告ら両名が痛みを訴える個所についてレントゲン写真を撮つたが、レントゲン写真上は何らの異常も認められなかつた。そこで、病院では、右原告らに湿布薬と痛み止めの薬を渡す等のいわゆる保存的療法をとるにとどめ、右原告らの症状を全身打撲傷と判断し、一〇日間の安静加療を要するとの診断を下した。

(イ) 右増田病院の措置に不満をもつた右原告らは、昭和六一年一月一四日から、原告孝行が、以前腰痛の治療のため通院したことがある柔道整復師(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師を兼ねる)である補助参加人が経営する千葉整骨院に通院するところとなつた。

補助参加人は、増田病院での診断、原告ら両名の愁訴等を基に、原告孝行については、<1>右肩甲部打撲、<2>左肩甲部打撲、<3>頸椎捻挫、<4>腰部捻挫、<5>右膝関節捻挫、<6>左膝関節捻挫と判定し、また同みさ枝については、<1>頸椎捻挫、<2>腰部捻挫、<3>右背部打撲、<4>左肩甲部打撲、<5>右肘関節捻挫、<6>右膝関節捻挫、<7>左膝関節捻挫、<8>右足関節捻挫、<9>左足関節捻挫と判定した。そして、補助参加人は、原告孝行については右六部位について、また同みさ枝については右九部位について、別紙治療経過表の期間、後療法(医療マツサージを含む)、罨法、電療法、はり治療等を施した。その結果、原告孝行は昭和六一年一一月七日に、また、同みさ枝は同年一〇月六日に一応怪我は治癒した。

以上の原告孝行、同みさ枝の治療の経過からいえることは、原告ら両名は長期間にわたつて、しかも頻繁に補助参加人の治療を受けているところ、原告ら両名の症状はもつぱら同人の愁訴に基づくものであることから、単に補助参加人の治療を受けていることの一事をもつて、実際にも右治療期間中負傷していたと認定することは相当ではない。また、逆に、病気の余後は当初の見通し通りにいかないことは経験則の知らしめるところであり、増田病院の診断書をもつて原告らの負傷の程度がせいぜい三週間にすぎないと認定することもまた行き過ぎのように思われる。要は、本件事故の態様、原告らの対応等を全体的に考察し、損害の公平な分担という損害賠償の理念に照らし、判断する他ない。以下、更に検討を進めることにする。

イ 本件事故の態様等

成立につき当事者間に争いのない甲第二号証の一ないし三、同丙第三号証(なお、甲第二号証の一ないし三は原本の存在と成立についても争いがない。)被写体につき当事者間に争いがなく撮影者、撮影日については弁論の全趣旨により被告ら主張のとおりであると認められる甲第五号証の一ないし三、原告孝行、同みさ枝、同山崎各本人尋問の結果によれば次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

本件は、時速約六〇キロメートルで進行していた亀田車が、前方道路を反対方向から進行してきた田村車が右折しようとするのを発見し、これを咄嗟に避けようとして反対車線に飛び出し、田村車の後方で停車していた川口車に衝突した事故である(以上の事実は川口車が停車していた点を除き、当事者間に争いがない。)。衝突部位は川口車の右前部と亀田車の右前部が衝突し、川口車、亀田車の右前部はそれぞれ凹損している。

ところで、亀田車は、川口車に衝突するまでの間、ブレーキを踏んでから九・五メートルの空走距離、一五・三メートルのスリツプ痕を路面に印象していることから、衝突時の速度はかなり減速されていた。しかも、川口車はクラウンロイヤルサルーン二・八リツトルという車でフレームというパイプの入つている一番頑丈に出来ている車であつたためか、後部座席に同乗していた原告山崎は、昭和六一年一月一六日、二三日の二日通院しただけで、その後昭和六一年中は病院に通院することなく仕事に従事することができている。他方、亀田車は、川口車と同程度の大きさの車で、運転席が車の最前部に位置する構造となつているところ、同車の運転席にいた被告亀田が本件事故で負傷したとの形跡は本件証拠上からは窺えない。以上のとおり認められる。

以上の事故の態様、すなわち亀田車の衝突速度、原告孝行、同みさ枝の傷害の程度と他の同乗者等との傷害の程度の比較等に本件事故は車の右前部同志の衝突でありこのような衝突態様は追突の場合に比較し一般経験則上、原告孝行、同みさ枝が訴えているような頸椎捻挫等は起こりにくいこと、原告孝行、同みさ枝は亀田車が川口車に衝突してくることが事前にわかつていたため、衝突時には身構える等の準備をしていたこと(原告孝行、同みさ枝各本人尋問の結果)等を併せ勘案すると、原告孝行、同みさ枝の治療期間は余りに長期間で不自然さが残るように思われる。

ウ 原告孝行、同みさ枝の治療期間等の不自然さ

また、前記アで認定した事実に、証人井上季芳の証言により真正に作成されたものと認められる甲第一号証の一、同登山勲の証言により真正に作成されたものと認められる甲第一号証の七、証人井上季芳、同登山勲の各証言、補助参加人本人(尋問当時は被告本人)尋問の結果(ただし、後記認定事実に反する部分は除く。)によれば、次の(ア)、(イ)の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(ア) 前記アで認定したとおり、原告孝行に対する治療部位は六部位であつた。すなわち、別紙治療経過表のとおり、左肩甲部に対し昭和六一年一月一四日から同年四月一五日までの間九二日中実日数にして七六日、右肩甲部に対し同年一月一四日から同年四月二一日までの間九八日中実日数にして八一日、左膝関節に対し同年一月一四日から同年五月一日までの間一〇八日中実日数にして八六日、右膝関節に対し同年一月一四日から同年九月二二日まで二五二日中実日数にして一六四日、腰部に対し同年一月一四日から同年一〇月二三日までの間二八三日中実日数にして一七八日、頸椎に対し同年一月一四日から同年一一月一七日までの間三〇八日中実日数にして一八六日の治療がそれぞれ施された。以上のとおり、原告孝行の負傷の部位は極めて多くの部位であり、治療の期間も極めて長期間である。そして、六部位について治療が施されていた昭和六一年四月中旬ころまでの間は休日を除き殆ど毎日、一日当たり三時間の治療が施されていた。

また、原告みさ枝に対する治療は九部位であつた。すなわち、別紙治療経過表のとおり、右肘関節に対し昭和六一年一月一四日から同年三月二二日までの間六八日中実日数にして五五日、右足関節に対し同年一月一四日から同年四月二八日までの間一〇五日中実日数にして八〇日、左肩甲部に対し同年一月一四日から同年四月三〇日までの間一〇七日中実日数にして八一日、右背部に対し同年一月一四日から同年五月八日までの間一一五日実日数にして八六日、左足関節に対し同年一月一四日から同年六月七日までの間一四五日中実日数にして八九日、左膝関節に対し同年一月一四日から同年六月三〇日までの間一六八中実日数にして一〇七日、右膝関節に対し同年一月一四日から同年七月七日までの間一七五日中実日数にして一一一日、頸椎に対し同年一月一四日から同年九月二四日までの間二五四日中実日数にして一四四日、腰部に対し同年一月一四日から同年一〇月六日までの間二六六日中実日数にして一四七日の治療がそれぞれ施された。以上のとおり、原告みさ枝の負傷の部位は原告孝行以上に多部位にわたつており、その治療期間も極めて長期間である。そして、昭和六一年四月下旬ころまでの間は休日を除き殆ど毎日一日当たり四時間半の治療が施されていた。

(イ) ところで、交通事故により負傷した場合の損傷部位は、通常は多くても、三ないし四部位であり、原告孝行、同みさ枝の診療に当たつた補助参加人も、同人らのように負傷部位が多部位にわたり、治療期間も長期化した例はこれまで経験したことがないと自認している。また、日本接骨師会の会長である登山勲も、交通事故による負傷者に対する治療において、原告孝行、同みさ枝のように負傷部位が多部位にわたり、治療期間が長くかつ濃密である例は殆ど経験していない旨証言している。

更に、一般的には、患者が全身痛を訴えたとしても、他覚的所見が認められない場合には、全身痛は一過性であり、対症療法として湿布、投薬をして、安静にしていれば一ないし二週間で快癒するのが通常である。

以上(ア)、(イ)によれば、原告孝行、同みさ枝の治療の部位、期間は、交通事故により生じた負傷としては、通常の例に比し、余りにも多部位、長期間かつ濃密といえ、一般の人が見て、不信ないし疑問を持つのも無理からぬところがあるように思われる。

エ 原告孝行、同みさ枝の対応等

前記ア、ウの認定事実に、前掲甲第三、第四号証の各二、証人井上季芳の証言、補助参加人本人(尋問当時は被告本人)尋問の結果、原告孝行、同みさ枝各本人尋問の結果によれば次の(ア)、(イ)の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(ア) 原告孝行、同みさ枝は、増田病院の診断では、全治一〇日間であると言われた。そして、このことは補助参加人も知つていた。ところが、原告孝行、同みさ枝は、休日を除いては殆ど毎日のように補助参加人のところへ通院し、一日当たり原告孝行において三時間、同みさ枝においては実に四時間半もの治療を受けているのに、増田病院で宣告された一〇日間をすぎても、原告ら両名の患部は一部位として治癒しなかつた(ちなみに、原告ら両名の患部は治療開始から二か月を経過しても一部位として完治しなかつた。)。原告ら両名の回復状況は以上のとおりであるのに、原告ら両名は、通常の病院に行き検査を受ける等のことはせず、漫然と柔道整復師である補助参加人のもとに通い、治療を受けていた。

(イ) 補助参加人からの保険請求は、七月に入つてもされていなかつたため、保険会社としては、原告孝行、同みさ枝に対する治療が多部位についてかつ濃密に行われ、保険金請求額が多額になつていることを知らなかつた。保険会社は、昭和六一年七月に入り、前記ウの原告孝行、同みさ枝の治療の実態を知り、同年七月二〇日すぎころ、補助参加人に対し、井上季芳を通じて、原告孝行、同みさ枝に対する治療は余りにも多部位かつ長期間にわたつており疑問であること、七月一杯で保険金の請求を出して欲しい旨申し入れた。そして、原告孝行、同みさ枝は、昭和六一年七月下旬ころ、前記井上季芳及び補助参加人から、一度、医師に症状を診てもらつてはどうかといわれたが、原告らはこれを拒否し、補助参加人の治療を受け続けた。

以上(ア)、(イ)によれば、原告孝行、同みさ枝において医師の診察を頑なに拒否する姿勢が窺え、一般人の目から見ると理解に苦しむところであり、治療費を負担する側としては納得しかねるところといえよう。

オ 当裁判所の考え方

以上アないしエ、すなわち、原告孝行、同みさ枝の負傷の程度について当初医師が全治一〇日間との診断を下していること、そしてその診断は本件事故の態様、とりわけ原告山崎、被告亀田ら原告孝行、同みさ枝以外の同乗者等の負傷程度に照らし一応の合理性がないわけではないこと、しかるに原告孝行、同みさ枝は、事故後一か月間は殆ど毎日のように柔道整復師の長時間かつ濃密な治療を受けたにもかかわらず、損傷部位は一部位として完治しなかつたこと、原告孝行、同みさ枝の症状は専ら愁訴だけであり、負傷の部位、程度が仮に原告ら主張のとおりであるとすれば交通事故による負傷としては柔道整復師がこれまで扱つたことの殆どないような重篤かつ異例のケースであること等を勘案すると、医師の治療続行の指示等のない本件にあつては、本件事故から一か月以内の治療費(ただし、はり治療、マツサージは除く)、休業損害、慰藉料は本件事故と相当因果関係のある損害といえるが、一か月を超える治療及び休業損害等については本件事故との間に相当因果関係があることが未だ立証されているとは認められないと考えるのが相当と思料する。

(2) 具体的損害額

ア 原告孝行の通院に伴う具体的な損害額

(ア) 医療費

前記(1)、オの基準、すなわち、本件事故から一か月以内に発生した医療費(ただし、はり治療、マツサージについては医師の指示のない本件にあつては、その治療の具体的効果が社会的に肯認されていない現状下にあつては損害から除外する。)については本件事故と相当因果関係にあるとの基準のもとに、その具体的損害額を算定すると、次のとおりとなる。

すなわち、前掲乙第七号証の一、二によれば、昭和六一年一月一四日から、同年二月一〇日までの間の二三回分の治療費、換言すると、初診料、再診料、診断書料、補助材料費等として金四万三〇〇〇円

(初診料+再診料+診断書料+明細料+補助材料費=3000円+1000円×22+3000円×3+3000円+6000円=4万3000円)、右肩甲部の治療費として金五万七〇〇〇円

(初回材料費+施療料+後療料+罨法料+電療料=1500円+5000円+2500円×22÷2+300円×23+700円×23=5万7000円、なお後療料にはマツサージ料が含まれているから、これを損害と認めることはできないのは前記のとおりであるから、この額を控除する必要があるので後療料のうち二分の一を減額した。以下同じ)、左肩甲部、頸椎、腰部の治療費として各金四万六〇〇〇円

(初回材料費+施療料+初回電罨法料+後療料=1500円+5000円+1000円+3500円×22÷2=4万6000円)、左、右膝関節部の治療費として各金四万五〇〇〇円

(初回材料費+施療料+初回電罨法料+後療料=1500円+4000円+1000円+3500円×22÷2=4万5000円)、合計金三二万八〇〇〇円

(4万3000円+5万7000円+4万6000円×3+4万5000円×2=32万8000円)が本件事故と相当因果関係のある損害額(医療費)ということになる。

(イ) 休業損害

前記(1)、オの基準に従うと、本件事故と相当因果関係のある休業損害は一か月(三一日)分ということになる。

ところで、弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる丙第七号証、原告孝行本人尋問の結果によれば、原告孝行は、本件事故当時株式会社ウワノ石油商会で車の整備士として稼働していたところ、昭和六〇年一〇月には金二〇万〇四四〇円、同年一一月には金二〇万九五六〇円、同年一二月には金二〇万一八八〇円の各給与と同年一二月には金三一万円の賞与を得たことが認められる。そうだとすると、賞与は年二回支払われるとの推定が働くので、原告孝行の年収は金三〇六万七五二〇円

((20万0440円+20万9560円+20万1880円)×4+31万円×2=306万7520円)

となり、一日当たりの収入は金八四〇四円

(306万7520円÷365=8404円、円未満切り捨て)となる。

以上によれば、原告孝行の休業損害は金二六万〇五二四円(8404円×31=26万0524円)

ということになる。

(ウ) 通院慰藉料

前記(1)、オの基準に従い、本件事故と相当因果関係のある損害を本件事故発生から一か月以内のものと考え、本件事故の態様、原告孝行の症状(頸椎捻挫を中心とする原告孝行の愁訴が主たるものである点)、その他本件に顕れている一切の事情等を考慮すると、原告孝行の通院慰藉料としては金一五万円が相当である。

(エ) 小まとめ

以上(ア)ないし(ウ)によれば、原告孝行の本件事故と相当因果関係のある通院に伴う損害額は、医療費が金三二万八〇〇〇円、休業損害が金二六万〇五二四円、通院慰藉料が金一五万円の合計七三万八五二四円ということになる。

イ 原告みさ枝の通院に伴う具体的な損害額

(ア) 医療費

前記(1)、オの基準、すなわち、本件事故から一か月以内に発生した医療費(ただし、はり治療、マツサージについては医師の指示のない本件にあつては、その治療の具体的効果が社会的に肯認されていない現状下にあつては損害から除外する。)については本件事故と相当因果関係にあるとの基準のもとに、その具体的損害額を算定すると、次のとおりとなる。

すなわち、前掲乙第一二、第一三号証の各一、二によれば、昭和六一年一月一四日から同年二月一〇日までの間の二二回分の治療費、換言すると、初診料、再診料、診断書料、補助材料費等として金四万三〇〇〇円(初診料+再診料+診断書料+明細書料+補助材料費=3000円+1000円×21+6000円+6000円+7000円=4万3000円)、頸椎、腰椎、右背部、左肩甲部の治療費として各金五万四七五〇円(初回材料費+施療料+後療料+罨法料+電療料=1500円+5000円+2500円×21÷2+300円×22+700円×22=5万4750円、なお、後療料にはマツサージ料が含まれているから、これを損害と認めることはできないのは前記のとおりであるから、この額を控除する必要があるので後療料のうち二分の一を減額した。以下同じ)、右肘関節、右膝関節、左膝関節、右足関節、左足関節の治療費として各金五万三七五〇円(初回材料費+施療料+後療料+罨法料+電療料=1500円+4000円+2500円×21÷2+300円×22+700円×22=5万3750円)、合計金五三万〇七五〇円(4万3000円+5万4750円×4+5万3750円×5=53万0750円)が本件事故と相当因果関係のある損害額(医療費)ということになる。

(イ) 休業損害

前記(1)、オの基準に従うと、本件事故と相当因果関係のある休業損害は一か月(三一日)分ということになる。

成立に争いのない丙第八号証、原告みさ枝本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告みさ枝は高校卒業後の昭和六〇年二月、原告孝行と結婚し、以後は専業主婦であつたこと、事故当時の年齢は満二三歳であつたこと、本件事故のため家事が行えないとして事故後一か月は原告孝行の妹が家事一般をみていたこと、昭和六〇年の賃金センサスによると、新高卒二〇歳ないし二四歳の年収は二〇八万五四〇〇円となり、これを一日当たりに換算すると金五七一三円(208万5400円÷365=5713円、円未満切り捨て)となることがそれぞれ認められる。

以上によれば、原告みさ枝の休業損害は金一七万七一〇三円(5713円×31=17万7103円)と評価するのが相当である。

(ウ) 通院慰藉料

前記(1)、オの基準に従い、本件事故と相当因果関係のある損害を本件事故発生から一か月以内のものと考え、本件事故の態様、原告みさ枝の症状(頸椎捻挫を中心とする原告みさ枝の愁訴が主たるものである点)、その他本件に顕れている一切の事情等を考慮すると、原告みさ枝の通院慰藉料としては金一五万円が相当である。

(エ) 小まとめ

以上(ア)ないし(ウ)によれば、原告みさ枝の本件事故と相当因果関係のある通院に伴う損害額は、医療費が金五三万〇七五〇円、休業損害が金一七万七一〇三円、通院慰藉料が金一五万円の合計八五万七八五三円ということになる。

(二)  後遺症損害

原告孝行は、現在でも腰及び両膝が痺れるという後遺症を、また、同みさ枝も両膝及び足首に痺れを感じる後遺症を負つており、これはそれぞれ自賠法後遺障害等級表一四級一〇号に該当すると主張する。

原告孝行及び同みさ枝各本人尋問の結果によれば、右原告らの主張に副う供述部分が存在する。しかし、原告孝行及び同みさ枝各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告孝行、同みさ枝は、千葉整骨院での治療が終了した後の昭和六一年一一月以降は、他の医療機関に通院した形跡が窺えないし、また、仕事遂行上支障をきたしているとの事実も窺えない。そして、弁論の全趣旨によれば、原告孝行、同みさ枝は、自賠法上の後遺症認定も受けていないことが認められる。

以上のような諸事情に照らすと、原告孝行、同みさ枝の症状が自賠法後遺障害等級表一四級一〇号に該当すると認めることは困難であり、右判断を左右するに足る証拠はない。そうだとすると、原告孝行、同みさ枝の後遺症に基づく損害賠償はその余の点を判断するまでもなく理由がないということになる。

(三)  原告孝行、同みさ枝の損害の有無

(1) 原告孝行の本件交通事故による損害は、前記(一)、(二)の検討から明らかなとおり金七三万八五二四円であるところ、原告孝行は、損害金として被告らから、既に、金九五万四二八〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがない。そうだとすると、原告孝行の損害額はすべて支払われていることになり、したがつて弁護士費用の請求も失当として棄却を免れない。

以上によれば、原告孝行の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないということになる。

(2) 原告みさ枝の本件交通事故による損害は、前記(一)、(二)の検討から明らかなとおり金八五万七八五三円であるところ、原告みさ枝は、損害金として被告らから、既に、金九五万四二八〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがない。そうだとすると、原告みさ枝の損害額はすべて支払われていることになり、したがつて弁護士費用の請求も失当として棄却を免れない。

以上によれば、原告みさ枝の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないということになる。

2  原告山崎の損害

(一)  原告山崎の損害の範囲

(1) 成立に争いのない丙第三号証、第五、第六号証の各一ないし三、原告山崎本人尋問の結果(ただし、後記認定事実に反する部分を除く)、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

原告山崎は、本件事故後の昭和六一年一月一四日ころ、左首筋がつつているような感じで吐気がしたため、同月一六日、同月二三日の二度、野村外科医院に行き、首から肩へかけて電気治療と牽引の治療を受けた。原告山崎は、昭和六一年一月二三日以降は自分でも良くなつたと思つて、千葉県四街道市立千代田中学校の用務員の業務に従事していた。そして、昭和六一年中は欠勤することもなかつた。

ところで、原告山崎は、昭和六二年に入つて、頸部から両側肩甲部、背部にかけ時に疼痛が走るとして、同年一月一四日再び前記野村外科医院に通院した。そしてその後同年二月に数回、同年三月に四回、同年四月に四回、同年五月に二回、同年六月に一回、前記野村病院に通院し、治療を受けている。

(2) 原告山崎は、前記(1)の野村外科医院での治療すべてが本件事故と相当因果関係のある損害であると主張する。しかし、野村外科医院の医師自身も昭和六二年に入つての治療は本件事故との間に一年間もの空白期間があり本件事故との間に因果関係があるとすることは医学的に見て困難であるとしていること(前掲丙第三号証)、前記(1)で認定のとおり原告山崎自身昭和六一年一月二三日の段階で一応治癒したものと考えていたこと、昭和六一年一二月三〇日に被告らから原告孝行、同みさ枝、同山崎に対し債務不存在確認請求事件の訴えが提起され(当庁昭和六一年(ワ)第一七四九号事件)、原告山崎は右事件の提起直後ころから再び野村外科に通院するようになつたこと、原告山崎は原告みさ枝の実母、同孝行の義母にあたること等を勘案すると、野村外科医院での治療のうち昭和六一年一月二三日までの治療は本件事故との間に相当因果関係があるといえるが、それ以降の治療は本件事故との間に相当因果関係があるとはいえないと考えるのが相当である。

換言すると、原告山崎の負傷の程度は昭和六一年一月一二日から同月二三日までの全治一二日間であつたというべきである。

(二)  原告山崎の具体的損害額

(1) 医療費

原告山崎は医療費として金五万八七四〇円を請求している。原告山崎本人尋問の結果によれば、昭和六二年二月までの治療費は既に支払われていることが認められる。そうだとすると、原告山崎の請求している医療費は昭和六二年三月分以降のものと思料されるところ、これが、本件事故との間に相当因果関係のないことは前記(一)で既に検討したところである。よつて、原告山崎の医療費の請求は理由がない。

(2) 慰藉料

当裁判所が前記(一)で認定した原告山崎の負傷の程度、通院に当たつての苦痛等本件に顕れている一切の事情を斟酌すると、本件事故に伴う原告山崎の慰藉料としては金九万円が相当であると考える。

(3) 弁護士費用

原告山崎の損害の認容額、本件事件の難易等を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては金一万円が相当である。

(4) 小まとめ

以上(1)ないし(3)によれば、原告山崎の本件事故による損害は金一〇万円(9万円+1万円=10万円)ということになる。

(三)  被告らの抗弁

(1) 一部弁済

被告らは、原告山崎に対し、治療費として金二万九〇七〇円を支払つたと主張する。確かに右事実は当事者間に争いがない。しかし、弁論の全趣旨によれば、右二万九〇七〇円は原告山崎が野村外科医院へ昭和六一年一月一六日、同月二三日の二日間通院した際要した治療費に対する支払であること、右治療費は本件事故と相当因果関係のある損害であること(前記(一))、原告山崎は右治療費を既に受領しているとして本訴では請求していないことがそれぞれ認められる。

以上によれば、被告らの一部弁済の主張は理由がないということになるる

(2) 充当

弁論の全趣旨によれば確かに原告山崎は原告みさ枝の実母であることが認められるが、他方原告みさ枝、同孝行と原告山崎とは別世帯で別居して生活していることも認められる。このようなとき、原告孝行、同みさ枝に不当利得分があれば、その部分は当然に原告山崎の損害に充当されるとの主張は、被告らの独自の議論で、法律上なんらの根拠も見出しえないので、当裁判所はかかる主張は採用することができない。よつて、被告らの充当の抗弁はその余の点を判断するまでもなく、失当である。

以上(1)、(2)によれば、被告らの原告山崎に対する抗弁はいずれも理由がないということになる。

三  結論

以上から明らかなとおり、原告孝行及び同みさ枝の請求は理由がないので棄却し、原告山崎の請求は金一〇万円及びこれに対する本件不法行為日の後である昭和六二年一月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこの限度で認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条を適用し、仮執行宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 難波孝一)

治療経過表

(一)川口孝行

<1>右肩甲部打撲 昭和61年1月14日~同年4月21日まで 98日中実日数81日

<2>左肩甲部打撲 昭和61年1月14日~同年4月15日まで 92日中実日数76日

<3>頸椎捻挫 昭和61年1月14日~同年11月17日まで 308日中実日数186日

<4>腰部捻挫 昭和61年1月14日~同年10月23日まで 283日中実日数178日

<5>右膝関節捻挫 昭和61年1月14日~同年9月22日まで 252日中実日数164日

<6>左膝関節捻挫 昭和61年1月14日~同年5月1日まで 108日中実日数86日

(二)川口みさ枝

<1>頸椎捻挫 昭和61年1月14日~同年9月24日まで 254日中実日数144日

<2>腰部捻挫 昭和61年1月14日~同年10月6日まで 266日中実日数147日

<3>右背部打撲 昭和61年1月14日~同年5月8日まで 115日中実日数86日

<4>左肩甲部打撲 昭和61年1月14日~同年4月30日まで 107日中実日数81日

<5>右肘関節捻挫 昭和61年1月14日~同年3月22日まで 68日中実日数55日

<6>右膝関節捻挫 昭和61年1月14日~同年7月7日まで 175日中実日数111日

<7>左膝関節捻挫 昭和61年1月14日~同年6月30日まで 168日中実日数107日

<8>右足関節捻挫 昭和61年1月14日~同年4月28日まで 105日中実日数80日

<9>左足関節捻挫 昭和61年1月14日~同年6月7日まで 145日中実日数89日

事故状況: 当社契約車(A車)は、対向の右折車(B車)を避けようとして対向の直進車(C車)に衝突した。

この事故でC車運転のT.K.その妻M.K.、M.K.の母C.Y.が負傷したもの。

経緯:  T.K.、M.K.の2名は事故当日M病院にて受診、その後N接骨院に9~10ケ月受診、C.Y.についてはN医院に2回通院し治ゆしたものの、翌62年1月14日に再び治療を開始し、同年6月まで通院した。

T.K.、M.K.についてのN接骨院の施術料は61年7月末に至り、約700万円がまとめて請求された。

本件はA車(契約車両)、B車の共同不法行為となるため両車の関係者が原告となり、必要な治療期間はせいぜい3週間程度であるとの前提で被害者3名と柔整復師Nを相手に、債務確認訴訟を提起した。

これに対し、被害者3名は本件損害賠償請求訴訟を提起し本件判決に至つたものである。尚、柔整復師Nについては、原告の補助参加人として参加している。

判決は、「日本接骨師会会長の鑑定書」及び原告らの迅問等を基に、本件の治療内容があまりにも多部位かつ長期であるとし、1ケ月以内の損害に限り相当因果関係あるものと認定した。

以上

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